2006

No.1

埼玉放射線 Vol.54

■ 巻頭言

信頼される医療を目指して
埼玉県放射線技師会  会長  小川 清

新年 あけましておめでとうございます。昨年は皆様のご支援、ご協力を賜り埼玉県放射線技師会会長として順調にスタートを切ることができ本当にありがとうございました。現在の混沌とした時代には、大なり小なり多くの決断すべき事項が次々と訪れます。その際に大きな力添えを頂いておりますのは、会員の皆様のご支持をいただいていることです。今後とも会員の皆様の期待を裏切ることなく、理事と力を合わせて法人の目的に合致した事業を展開していく所存ですので、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

21世紀 にはいり、早7年が経過しました。直前には「21世における・・」という課題が掲げられていたのを思い出します。そして我が国が目指すべき国の一つの姿として、安全が確保され、人々が安心して心豊かに、質の高い生活を営むことができる「安心・安全で質の高い生活のできる国」が掲げられました。我が国では社会生活全般にわたり、安全について深く考えなくても、ある一定レベルの安全・安心が得られてきました。これは、日本国民の特性である島国国民性のなかで育まれた地域活動、いわゆる近所間でお互いに助け合うという相互扶助の精神や、そして経済力に裏付けされた国民総中流意識のおかげであるといわれています。また安全・安心に対する国民の受け止め方については、ある程度の安全が得られてきたことを背景に、安全は自ら努力せずとも与えられるという受動的な態度と、災害や事故にあってもそれは運命もしくは宿命であるという考え方がありました。このような安全への受動的な態度と危機に対する運命的な考え方が妨げとなって、危機管理という意識は根付きにくい社会になっていました。

しかし、グローバル化を主とした我が国を取り巻く内外の社会状況の変化から、こうした考え方や対応における限界や問題点が明らかになってきました。昨今のニュースからも耐震強度偽装問題、米国産牛肉輸入問題など衣・食・住の社会全般にわたって綻びが見えつつあります。

医療 においては1999年に発生した患者取り違え手術事件を教訓として、医療事故が全国で表面化し、マスコミに取り上げられ事故責任が追求されています。調べによれば1週間に全国紙、地方紙にて50件にもなります。過去において医療事故は、技術の未熟さ、知識不足、姿勢など「気を付けなさいよ!」というスタッフの責任論に片付けられてきました。これでは医療の質が維持改善されず、再度正当な診療が行われない恐れがあります。また医療事故はスタッフのミスのみならず、医療機器の保守管理不足によることもあり、複合的に複雑に絡み合って発生します。また医療業務サービスの特性として、医療というサービスを受ける患者さんが、サービスの過程に参加しなければサービスを受けることができないという協業性(参加性)があげられます。製品製造のように不良品は除外するというようなことは不可能であり、その過程が評価となって継続します。この点を軽くみると大きな判断ミスを冒します。

放射線技術部門での取り組みに関しては危険予知可能な事例が多くあること、また多数の職員が複雑に関与しあうことなどからシステム変革としての取り組みが大切であります。そこでは部門長のリーダーシップが大きく求められます。一例をあげれば患者誤認防止、撮影条件過ち防止、フィルム整理誤ち防止、妊娠確認忘れ防止、フィルム渡し忘れ防止、転倒・転落防止、作業中断間違え防止、部位間違え表記防止、放射性医薬品誤注射防止、ポータブル撮影患者間違え防止などがあり、ワーク・フローを成文化し運用改善していくことで、例えミスを冒しても次のステップにて発見解決することができます。是非とも多くの施設でワーク・フローを成文化してミスを無くす努力をしましょう。

最近 、阪神大震災復興から10年経過し、そのころ新築された住宅が手抜き・欠陥が多いという記事を読みました。震災後は、早く仮設住宅を離れ自分の家がほしいという思いから新築・改築ラッシュが起こり、常識では考えられない速さで建てられたが新築して10年以上たった今、亀裂や雨漏りいろいろな問題が露呈しはじめ、神戸市には相談が増えていると聞きます。建築ラッシュだったために職人のレベルなど関係なく、建築資材と人手さえあれば仕事はいくらでもあり、マニュアル通りにさえやれば、素人でもそれなりの家は建てられ、いかに早くたてるかという勝負だったという。初めは誰でも丁寧にやり始めたとしても、次々に建てなければならないため、効率性に追われ途中で手を抜いてしまうケースが生まれる。

仕事は正確性と迅速性で評価されます。この2つは妥当なところで評価するのではなく、別々に評価すべきと言われております。医療に於いても、質を高めるために正確性を損なうことなく迅速性が求められております。皆様の施設におかれても、撮影患者数や検査数増加による忙しさに追われ、質を改善するという姿勢に乏しくなっておりませんか。建築の問題のみならず医療においても質の問題はその時は見逃され、あとになってから突如訪れます。命を守る職種としては当然ながら改善、改善と進んでいく姿勢が求められます。機器が更新したりスタッフが交代したときはモチベーションが高揚しますが、維持することは大変難しいものです。そのためには本当に患者のためになる「あるべき姿」「あるべきモデル」がないと頓挫します。

改革論者はスピード、スピードと連呼し、「今実行しなければ生き残れない」と脅迫的に叫びます。そのような改革は、すごく乱暴な改革になります。改革は静かに進行すれば社会もあおられた気持ちにならないし、落ち着いた気持ちで安心して日々の生活ができます。誰でも100%完璧な人はいません。時には思い過ごしも見逃しもあるかもしれません。平成18年、混沌とした時代だからこそ謙虚になって正しいことを正しく実行していきたい。

参考資料
1)「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会」報告書2004.4

2)「医療サービスと放射線技師の役割」配布資料 2006.1 (ADセミナー:群馬県放射線技師会)