2006

No.2

埼玉放射線Vol.54

■巻頭言

バトンタッチ
埼玉県放射線技師会  会長  小川 清
 4月 は桜の咲く季節です。桜は毎年咲き、そして散りますが、年度が変わるこの時期に人が入れ替わります。去った人そして新しくなった人、様々ですが引き継ぎがうまくなされないと組織は混乱します。特に医療においては待ったなしの世界ですから継続性が問われます。ほれぼれするバトンタッチは必要ありませんが、スムーズな引き継ぎが求められます。オリンピック選手のようなスピードに乗った切れ目のないバトンタッチが理想ですが、なかなか実現できません。よいバトンタッチを実現させるためには、一時に一事の原則として、リードして受け取る。 前を向いてバトンを受け取る。「ハイ」と言って渡し、「ハイ」と言われて受け取る。 最高速でバトンを受け取る。の4点と言われます。

また相手が来て、ゆっくりリードしてバトンをもらってからスピードをあげるのと、相手があるところまで来たときに、一気にスピードをあげてもらうのとではどちらが早くバトンタッチができるかでは、後者の方が早いと言われます。陸上競技のリレーにおいては、走者はバトンタッチの意識がはっきりしていますので問題はありませんが、企業や団体のリーダーのバトンタッチほど難しいものはないと言われています。バトンを渡す走者とバトンを受け取る走者のスピードが合って、バトンを渡すという気持ちとバトンを受け取るという気持ちが一致しないとうまくいきません。本会は藤間前会長の走るスピードと私の走るスピードがうまく合い、長い受け渡しゾーンを使用することなく、本当に適切に行われたと思っております。これは私の力ではなく、最後までスピードを緩めることなく走り抜いた藤間さんの力が大きかったと思っております。しかし、グローバル化を主とした我が国を取り巻く内外の社会状況の変化から、こうした考え方や対応における限界や問題点が明らかになってきました。昨今のニュースからも耐震強度偽装問題、米国産牛肉輸入問題など衣・食・住の社会全般にわたって綻びが見えつつあります。

最近、社長になる年齢が下がりはじめ50代が多くなりつつあります。また病院長も50代が増えてきました。そして放射線技師長職も40代から就任される人が増えてきました。やはり社会の変動にリアルタイムで反応でき、経済感覚をもった人がリーダーとして求められるようです。企業においてはリーダー育成システムを構築しているところがありますが、医療においてはリーダーとしての人材育成システムはないのが現状でしょう。また、将来のリーダー候補として経験を積ませようとしても現実の職場環境のなかでは、「修羅場」をタイミングよく与えることはなかなか難しいのです。しいてあげれば配置交代や関連病院への転勤、出向は「修羅場的」になりうると思います。やはり組織形態や人間環境など職場環境の違いを経験することは想像する以上に大変なことですが、きっと財産になると思います。

一方、自分を高めるためには、自分が転勤可能な職場であるなら異動を積極的に申し出た方がよいでしょう。それは新しい職場に移ると、今まで自分が知っている得意分野外の新しい知識を得る必要性が生まれることで視野が広がります。また短時間に新しい人間関係を築く必要が生まれるために、コミュニケーション力が磨かれます。また新しいところでは環境変化に伴い失敗をすることが多いのですが、その失敗から学ぶことも多いはずです。種々のリスクマネージメントも学びます。一方、病院からの出向が無理なら、病院内のプロジェクトチーム・リーダーを経験するとよいと言われます。病院内プロジェクトは様々な部署から多種多様な人材があつまってくるために、それをまとめることは容易ではありません。企画案を提案し、メンバーに意見を出させ目標を達成することは、一つにまとめあげる力を鍛える場となります。でも希望していても病院内のリーダーはほとんどが医師です。しかしリーダーは無理でもメンバーとなって活躍してほしいのです。病院内のプロジェクトチームが無理なら、放射線技術部内でプロジェクトチームを作って、なにか仕事を完結させてほしいものです。そのような経験の積み重ねが絶対に必須なのです。これからは知識がある、技能があるだけでは通用しません。人間力を鍛えていかないと病院に貢献できないのです。貢献できない技師はバトン受け渡しゾーンに立てないのです。

技師会活動は会員のために、公益のためにというボランテイア精神をもった、そしてサービス精神の高い能力をもった役員が、医療機関で働くという本来の業務をしながら献身的に努めております。そこには「修羅場」は少ないですが、人間力を高めるチャンスが多くあります。会員の皆様におかれましては是非バトンを握って走ってみませんか。待っております。改革論者はスピード、スピードと連呼し、「今実行しなければ生き残れない」と脅迫的に叫びます。そのような改革は、すごく乱暴な改革になります。改革は静かに進行すれば社会もあおられた気持ちにならないし、落ち着いた気持ちで安心して日々の生活ができます。誰でも100%完璧な人はいません。時には思い過ごしも見逃しもあるかもしれません。平成18年、混沌とした時代だからこそ謙虚になって正しいことを正しく実行していきたい。

参考資料
渡辺 善男氏「こうすればできるスピードにのったバトンタッチ」楽しい体育の授業2000年8月号