2006

No.4

埼玉放射線Vol.54

■巻頭言

信頼関係の構築
埼玉県放射線技師会  副会長  磯田 一巳

58診療放射線技師国家試験は、平成1832日、各地において14科目200題で実施され、合格者が4月7日に発表された。受験者数2645名、合格者数1665名、合格率62.6%であった。例年70%~80%の合格率を維持してきたが平成16年度よりカリキュラムに変更があり、内容がより臨床的になったことが理由かもしれない。
 依然として厳しい就職状況の中で、希望の地に就職し新人技師として約半年が過ぎ、その間それぞれの施設で新人教育を終え、当直も何とかこなせるようになり、多少自信もついてきただろうか。

埼玉県放射線技師会にはここ数年毎年70名前後が入会している。平成11年より実施している認定技師制度の講習会、認定試験等の学術活動が評価されたものと自負している。また、未入会者、新人技師を対象にSARTセミナーを開催しており、技師会活動、研究会活動、学術講演、埼玉県放射線技師会の各活動について分かりやすく説明し、好評を得ているのも入会者が増加した理由であろう。
 私の新人時代、就職した施設では有無を言わさず技師会、技術学会への入会が当たり前だった。現在では、技師会、技術学会、研究会等の活動内容を先輩技師に聞いたり、ホームページ等で調べて納得してから入会することが多いため、地区勉強会等は若い人の参加者が多いように感じられる。
 例年、私の所属している地区では4月に会員相互の親睦を兼ねた花見会が開催され、新人技師が紹介される。出身県、出身学校、理想の技師像まで自己紹介するのが恒例となっている。親睦会という気楽な雰囲気なので、私は一人ひとりに必ず声を掛けるようにしている。診療放射線技師を選択した理由は、父母、知人が医療関係者であり、勧められて診療放射線技師を目指したという理由が多く、医療関係者には診療射線技師はまだまだ人気の職業として捉えられているようだ。

埼玉県放射線技師会では、各地で医療画像展を開催している。私の所属する地区では、ここ数年、所沢市保健センターでの開催が恒例となっている。例年多くの新人技師が先輩とともに参加してくれる。花見会から半年が経過し、その間、撮影技術等の勉強を毎日遅くまで勉強していると、だんだん顔つきが違ってくる。新人技師として撮影技術等の習得とともに、患者さんとのコミュニケーシヨン・接遇も大事な技師の仕事であり、勤務先でも積極的に患者さんに話しかけるようにしているようだ。

検査を受ける患者さんは病気の早期発見を願いつつも、検査による被ばくを心配している。検査終了後に被ばくについて相談を受けたら、「大丈夫ですよ」「心配ないですよ」では患者さんは納得しない。適切な対応が必要となり、それを怠ると患者さんとの間に不信感が生ずる結果となる。
 放射線を人体に照射する放射線技師は、自分の責任において、照射した被ばく量を把握する義務がある。
 私が受講した講習会では、プログラムによる線量推定ソフトを使用して各臓器線量の推定値を求める方法であった。各モダリティ別の撮影電圧、撮影電流、撮影時間等を所定のシートに記入提出し、数週間後には各モダリティの推定被ばく線量が判明した。なお、線量ソフトを使用した推定線量計算には機器管理が正常に行われていることが前提となっている。今後このような内容の講習会の開催が望まれる。

現在、埼玉県放射線管理士・危機管理士部会では県内各地において「医療被ばく相談対応講習会」を開催中である。第1回のテーマを「医療被ばく相談に答えるための基礎知識」、第2回のテーマを「医療被ばく相談の回答例作成の実際」としている。講義を聞くだけでなく、受講者と一緒に考え、意見交換をおこない最良の回答を作成することを目的としている。そのため医療被ばく相談の想定質問に対し、回答を作成し提出することを義務づけている。提出された回答は、第2回講習会おいて医療被ばく相談の回答例として参考とする。
 医療被ばく相談は、本会のホームページでも受け付けている。その一例として、子供が一日に2回頭部CT検査を受け、異常なしと診断された後、検査で受けた被ばくが心配になり、それぞれ放射線科で被ばくについて相談したところ、被ばく線量値が異なり不信感が生まれた。検査を受けさせてしまったという後悔の念にかられ悶々とした日々を過ごしながら、インターネットで「しきい値」を調べ、さらに混乱する中で本会へ相談があった。何回か相談者とやりとりがあり、過去に数多くの医療被ばく相談の回答をしてきた放射線管理士により相談者に納得のいく回答ができた。
 過去の医療被ばく相談と違う点は、現在では、インターネット環境の発達により多くの情報を得てからの相談が多くなったので、内容について適切な回答が求められるようになった。相手に対し、思いやりの心で接することが、相談者の不安感を取り除く最良の方法ではないだろうか。
 回答に納得していただいた相談者からは、「このような質問に答えてくださる専門家の方がいるということは、とても心強く感じます。」「医師にとっても専門外の分野であり、これからますます放射線技師への期待が高まることと思います。」等のお礼の言葉が届いている。
 本会の医療被ばく相談の回答の末尾には「私たち診療放射線技師は、少ない放射線を有効に利用して、皆様の健康のために役立てる医療技術者として働いています。埼玉県放射線技師会では、あなたのようにエックス線検査の被ばくに関してご心配になっている方の質問にいつでもお答えいたします。今後ともどうぞお健やかにお過ごしください」の文言を入れている。

最後に、会員が今回の講習会を受講し、県内各施設において、相談者に分かりやすく回答ができるようになり、医療被ばくの専門家として診療放射線技師が「国民より信頼される職業」となり得るように期待したい。