別に、暴力団の抗争について話をする気は毛頭無い。人間に限らず、あらゆる生物は縄張りを持つ。動物にとって個々の縄張りには、その所有者にとって、食物の確保、異性の獲得と保持、巣の安全などの働きがある。人間にとっての縄張りには、動物とは異なる特徴があり、生物学的に必要なだけでなく、レクリエーションでの場所取りや社会的ステータス(地位)の誇示など二次的目的にも使われている。縄張りのもつ領域性は、小は個人の身体的空間から大は国家関係まで、経済活動、社会活動、ときには戦争というさまざまな形をとって顕在化してくる。縄張り意識は生物にとって本能のようなものだ。
縄張り意識の強い人や、複数人で縄張りを作ろうとする人がいる職場も中にはあるだろう。 例えば、Aさんは長年MRIを担当している主任技師で、いわばMRIの主のような存在。Aさんの下にはBさんとCさんがおり、この二人も一生懸命MRIを勉強している。ある時、技師長が「B君、近隣の開業医に配布する病院報にMRIの記事を載せるそうなので書いてくれ」と言い、Bさんは快諾して記事を書いた。後日、このことを知ったAさんは激怒。Bさんに向かって、なぜ自分に何の相談もなくそんなことを引き受けたのかと詰め
寄った。それがきっかけとなり、Bさんは技師長に配置換えを申し出ることに。この場合、MRI業務そのものがAさんの縄張りだったのだ。これは人間の本能だから仕方がないと放置しておいて良いものなのか。
マイクロソフト元COOのボブ・ハーボルド氏は次のように言っている。 縄張りは人間の根深い欲求..自分の仕事にとって不名誉になる情報を抑え込みたい、自分の運命を自分で決定したい、組織にとって重要な存在とみなされたいといった欲求..に基づくもので、あらゆるタイプの組織で生まれてくる。また、個人、チーム、部署、部門、子会社など、企業のあらゆるレベルで出現する。そして、深刻な害を与えるのである。
縄張りは、ひとつには創造性を抑えつける。縄張りを支配している人々は自分の立場を維持するために新しいアイデアを撥ねつけるからだ。
縄張りの支配者が、自分をよく見せようとして自分の担当分野で起きていることについて慎重に選び抜いた情報しか表に出さない場合には、混乱はさらにひどくなる。縄張りは組織の中の本当に資源を必要としているところから大切な資源を奪い取る。しかも、放っておいたら会社全体を崩壊させることさえある。
このように、組織の中に縄張りを存在させてはならないという主張が非常に強い。
また、これに対する手段として、「チームや部署、または部門の人材を入れ替えよう」とも説いている。
こういったことは、職場内に限らず、組織同士でも縄張り争いというかたちで表面化してくる。 人一倍努力している人が、自分がナンバーワン、この組織がこの分野ではナンバーワンと自負したくなる気持ちは分かるが、ふと気がついたら、自分が組織や業界の足を引っ張っていたなどということにはなりたくないものだ。
謙虚に、謙虚に!
参考文献 日本大百科全書 PRESIDENT 2005年3.7号
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